東京・新大久保はコリアンタウンとして有名な街。けれども、ここから北東に進んだ台東区・鶯谷でも大勢の韓国人を見かけることができる。
『名前のない女たち』(宝島社新書)や『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書)、そして『日本の風俗嬢』(新潮新書)などを手がけるノンフィクションライター・中村淳彦氏の著書『日本人が知らない韓国売春婦の真実』(宝島社)は、これまでほとんど可視化されることのなかった日本における韓国デリヘルや、韓国における売春事情を取材した一冊。そして、本書の記述からは、日本とはまったく異なる韓国の「売春」の実態が浮かび上がってくる。
「東京で警察が動かないのは、鶯谷と大塚」といわれるこのエリアでは、サービスの基本は本番行為。
しかし、そんな熱い声とは裏腹に、韓国人デリヘル嬢たちの仕事は過酷を極めている。鶯谷で働いた経験を持つ韓国人留学生は、「本当にきつかった」と、当時を述懐する。
「韓デリの女の子はほとんどがノービザの観光目的で入国して、寮に住んで働いています。寮っていっても、普通のマンションの一室で、そこで全員が寝泊まりしていた。
「寝ていようがカラダがボロボロだろうが、熱があろうが行かされる」という労働環境は、まさに「タコ部屋」という言葉がふさわしい。彼女たちのほとんどは、ブローカーの手引きによって、生活費や整形代などに充てられる前借金を作って来日し、連日連夜、死に物狂いで働かされるのだ。中村の試算によれば、3カ月間でおよそ270万円余りの金額を稼ぎ出す彼女たちだが、借金の支払いや、「手数料」という名目でピンハネされるブローカーへの支払いによって、手元に残る金額はほぼない。さらに、ノービザで来日し、違法な売春行為を行う彼女たちの弱みに付け込んで、客によるヤリ逃げや強盗、盗撮などの被害が後を絶たず、常に危険と隣り合わせの毎日を送っているのが現実だ。
一方、韓国国内では、売春婦たちはどのような生活を送っているのだろうか?
日本では、「性行為」としての売春のみ違法とされているが、韓国では手コキやフェラなどの「性交類似行為」までが2004年に制定された「性売買特別法」によって禁止されている。しかし、もともと韓国は国策で全国に100カ所以上の赤線地帯を設けるなど、売春大国として知られていた。そんな名残があるのか、法律が改正されて以降の厳しい取り締まりにもかかわらず、「ルームサロン」「チケット置屋」「オフィステル」などさまざまな風俗店が営業をしているのが実態だ。04年の法律改正時には、法律の即時撤廃を求めるデモが3,000人の売春婦によって行われた。
では、厳しい法律の規制にもかかわらず、なぜ彼女たちは売春婦になるのだろうか? そこには、韓国政府のネオリベラリズムに傾いた経済政策が関わっている。
「国民の過半数が普通に暮らせない状況になりつつある。
格差社会の韓国において、非正規雇用で暮らす若者たちの平均給与は、およそ8万8,000円程度。もちろん、この金額では、生活することすらももままならない。「どんなに頑張っても自立できないから、自立したい女性は公務員になるか、思い切ってカラダを売るしかないわけです」と、韓国国内の厳しい現状が語られる。
韓国で性売買特別法が制定されたことによって、日本において韓国デリヘルは一気に盛り上がりを見せた。
LCCの台頭や文化交流の活発化などで、韓国はこれまで以上に「近い」国となっている。しかし、まだまだ知られざる真実に満ちあふれているようだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])